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和印 ニュース
WA-JIRUSHI  NEWS

「最大の岐路となった第3回・和印マーケット」by 和印2号

2023.07.12 (水) 

『和印マーケット』の開催もついに3回目を迎えました。
無我夢中で駆け抜けた1回目、売上確保に必死だった2回目。
そしてこの年・2006年の『第3回・和印マーケット』は、「花咲く和印」というキャッチフレーズをつけました。

折込みチラシのモデル撮影については、1回目は「ゆかた2枚重ねにレース帯盛り盛り」、2回目は「和洋折衷コーデ」でしたが、今回はここにも「花」をふんだんに!
女性モデルさんには黒の振袖を纏ってもらい、髪と帯周りに生花を山のように飾りつけ、履物にも花三昧!
なかなかの非日常コーデとなりました。

そして今回はメンズ着物にもスポットを当て、多くのブランドにご参加いただきました。
そのうちの1ブランドが、『和印ストリート』にもご参加いただいている「和次元 滴や」さまです。
あのころと変わらぬ信念で、袴式和服の決定版【士揃ヱ/SAMURAI ZOROYE】をご出品いただいています。抜群にカッコいい!!

さて第3回の会場構成ですが、昨年導入した「リサイクルきもの」のコーナーを敢えて「アンティーク」に絞り、「売ること」よりも「魅せること」「楽しんでもらうこと」を重視いたしました。
しかし、それは同時に爆発的な販売力を捨てることでもあります。
開催までのあいだ、各方面から多くの反対意見をいただきましたが、この年はどうしても「やりたいこと」を「やり切りたかった」のです……。

前日夜からの準備では、さすがに過去2回の経験を活かし、大きな混乱もなく進めることができました。
ただ1点、若手女性社員が心を込めて手作りしてくれたプライスカードが、こともあろうにゴミを間違えられて清掃業者に持ち去られてしまうというハプニングが!
それでもその女性社員は文句ひとつ言わず、超特急で同じものを作ってくれました。
ありがとう!! 君は百貨店社員の鏡だ!!

そして会期がはじまり、予想どおり昨年と比べると客足は鈍い状態。
それでも、第1回よりは数字がいい。
特にクリエイター系のショップは、第1回から第2回、そしてこの第3回と、どこも順調に数字を伸ばしています。
和ものファンに向けてのこの発信方向性は間違っていない!!
そう信じながらも、やはり全体的な売上がかなりダウンしてしまっているので、お店のお偉方たちは渋い表情です……。

結局、1週間合計の数字は芳しくなく終わり、私たちは「それ見たことか」といった周囲からのお叱りを全身に浴びる結果となってしまいました。
それでも話題性は十分にあり、和ものファンの拡大には貢献できたと自負しております。

さて、来年は果たしてどうなるのか?
開催できるのなら、次はどんな手で巻き返してやろうか……と普通なら考えるのですが、ここで私は別の決心をしていました。
年内で「百貨店を辞めよう」と。

実は前年、私とともに『和印マーケット』を立ち上げた私の元上司(現・弊社社長)が夢を追いかけるために退社しておりました。
そして私も挑戦したいことがあったため、この年をもって百貨店稼業に別れを告げることにしたのです。

そして16年の月日が流れ、ブログNo.2でお伝えした運命の瞬間へと歴史は続き、『和印ストリート』が誕生することになります。

ここからは「インターネット」という市場での活動となりますが、初志は変わらず「和の楽しさ」を広く伝えてもっともっと和ものファンを増やしていく、ということです。
早い時期に「リアルイベントの開催」も視野に入れていきます。

そしていつか、街を歩く人のせめて3割ほどが着物姿となり、「珍しいねぇ」という目ではなく「オシャレな着こなしだねぇ」という目で着物姿を見てくれる日が来ることを夢見て……。

<この項 終わり>

夏野姉妹と和のある風景①「ゆかたカタログの憂鬱」

2024.09.02 (月) 

 ここはとある百貨店。
 その一部門・呉服売場では、夏の一大商戦に向けての準備が日々進められていた。

 久保雄介(くぼ・ゆうすけ)は今年から高級呉服から浴衣へと担当が配置換えされ、新たな売場運営に意欲を燃やしていた。

 雄介がこの百貨店に入社したのは今から10年前。
 呉服のゴの字も知らない状態で配属され、反物を巻くところからスタートしたその販売員人生だったが、いつしか富裕層客に高級呉服を売ることに慣れてしまっていた。
 そんなとき、ふいに訪れた人事異動で浴衣売場担当に。
 雄介は、これまでの決まりきった顧客への計画的な販売から、不特定多数の一般顧客へのアプローチというまだ見ぬ世界に、相当のワクワク感を感じていた。

 今、雄介は自らのキャリアの新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。

 **********

「久保主任! 今年の撮影用商品が届きました!」
 ひとりの若い女性社員がダンボールケースを持ってきた。
「お、来た来た! 今年は結構面白い柄が多かったからな~」
 部下の女性社員とともにケースを開ける雄介。と、中には色とりどりの浴衣や帯、小物類などが犇めいていた。
「あ、私が見たヤツ!」
 そう言って、一枚の浴衣を取り出して広げる女性社員。

 浴衣商戦というのは大体4月から8月にかけてだが、その仕入れは毎年冬場に行われる。
 1月から2月にかけて各メーカーが試作品の展示会を行い、百貨店や専門店のバイヤーがそこに群がる。そして仕入計画に基づいて各商品を選定し、メーカー側は各百貨店や専門店の要望数をもとにして大量生産に入る。
 もちろん、製作するメーカー側にも思惑があり、リクエストされた通りの数をつくるわけではない。
 従って、力の弱い店は要望通りの商品が来ないこともあり、そこは毎年の売上数値が顕著に翌年に反映するところなのだ。

 雄介のいる百貨店では、売場主任でありバイヤーでもある雄介とともに、ターゲット層に近い若い女性社員を仕入れに同行させ、彼女の意見も大きく取り入れている。
 若い社員にとって、やはり自分が選んだ商品が入荷してくるのは嬉しいもの。しかし、それが必ず売れるとは限らないので、雄介としては彼女の意見を尊重しつつも予算と在庫、売場面積と展開方法全てを頭に入れて調整しなければならないわけだ。

「よし、行くか!」 
 今日はシーズンに先駆けて行われる、今年の浴衣カタログに載せる商品の選定会議が行われる日。
 この会議にも雄介は若い女性社員も帯同させ、担当業務の意義を体感させようとしている。

 会議室の大きな机上に撮影候補の商品をズラリと並べながら、雄介がカタログのコンセプトを説明する。
「……というわけで、今年はドレッシー、アンティーク、アバンギャルド、ベーシックと4つのテイストに分けて紙面構成し、メンズと小物は別撮りという形でいこうと考えております」
 雄介の出した企画書を睨みながら、商品にも順次眼を移していく販売推進部や宣伝部の担当者たち。

 カタログというものは、当然ながら売場の意向だけで作れるものではなく、会社としての方針を前提に、全体的な部門の位置付けに基づいた会社の予算内で製作するわけなので、まずは会社側を説得することが第一関門なのである。

 雄介の説明に、幾人かの担当者はフムフムと頷いて商品を手に取りはじめたが、年配の役員である師岡本部長から苦言が呈せられる。

「横文字にする必要があるのか? 和商材の浴衣には合わんよ。……もっと分かりやすい表現にしなさい」
「や、でもこれは流行を踏まえたキーワードなんですよ! 浴衣というのは、和の商材とは言え夏のトレンドファッションです。そこに洋を取り入れるのは自然の流れですよ? 事実、商品の特徴にも洋のテイストがたくさん入ってきてます!」
「……そんなことは聞いていない」
 そう言って師岡本部長は席を立ち、会議室を出ていかんとする。
「ちょ……、ちょっと待ってください! 若い人に分かりやすく売っていくためにはこの構成が一番……!!」

 雄介の懇願も空しく、師岡本部長は黙って会議室から出ていく。

「……久保主任。仕方ないですよ、僕らにできる範囲でやりましょう」
 販売推進部の男性社員が陽介をなだめる。
「クッソ!」
 思わず悪態をつきつつ、ガタンと椅子に座り直す雄介。その様子を、部下の女性社員が不安そうな目で見る。
 部下の視線に気づいた雄介は、慌てて気を取り直し、笑顔で説明を続ける。
「じゃ……じゃあ、ひとまず商品を選びましょう! どっちみちテイスト別には分けなきゃいけないし、細かい表記の件はまた後で……」

 ***

 売場に戻り、余った商品を片付ける雄介。
 一緒に片付けをしながら、部下の女性社員が膨れた表情で愚痴る。
「主任! あの人何なんですか!? 私たちはお客さんのために考えてるのに……」
「まあ、偉いさんなんてあんなもんさ。『お客様満足第一主義』とか言ってっけど、上の方は自分たちの満足第一主義って感じだな」
「なんか……、それが会社かと思うと、切なくなりますね……」
 女性社員の不満げな表情が、悲しげにに変わっていく。
 雄介もまた、様々な事情を考え合わせては暗く沈んでいくのであった……。

 **********

 そして、夏本番も間近の6月!
 浴衣の本格シーズンに突入し、雄介の売場でも日々来客数が増加してきた。

 心配された浴衣カタログも好評の内に配布されはじめ、売場のレイアウトも予定通り4つのテイストに分けてゾーンを形成、それぞれにマネキンを設え、日々販売員全員で協力してコーディネイト提案をしていた。

 売上状況も悪くなく、予算達成に向けて全員一丸となった姿勢が売場を盛り上げていた。
 そんな折、雄介は突然宣伝部に呼び出された。

<つづく>

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